糖尿病網膜症
糖尿病にかかって、すぐ目に異常をきたすわけではありません。糖尿病と診断され、網膜症になるまで数年から10年くらいかかることが分かっています。
重症な糖尿病網膜症になって、失明したり失明の危険が迫っている患者さんは、全糖尿病患者さんのうち20%くらいと推定されます。
病気の進行は前期(単純期)、中期(前増殖期)、後期(増殖期)の3期に分かれています。
前期の時は、特に治療する必要はありませんが、中期になると病状進行を防ぐために、レーザー光凝固術の治療が必要になります。この時期を逃さないことが治療のポイントとなります。レーザーを受けたからといって視力が良くなることはありません。しかし、網膜症の進行をくいとめるための最も有効な方法です。
後期になると硝子体出血・網膜剥離・血管新生緑内障などがおこります。こうなると失明の危険性がありますので、手術が必要になります。手術によっておよそ80%が治りますが、完全な視力の回復は難しいのが現状です。
糖尿病と診断されたら、必ず眼科医の管理を受けて下さい。
飛蚊症
目の前を小さなものがチラチラして、ちょうど蚊が飛んでいるように見えるのを、飛蚊症(ひぶんしょう)と言います。これは、実際に細かい濁りが目玉の中に浮いて動いているのです。
その原因は色々ですが、多くの場合は硝子体剥離(しょうしたいはくり)といって、硝子体という目玉の中身が、そのすぐ外側の網膜からはがれてしまったものです。
硝子体は、ちょうど卵の白身のような透明なものです。この硝子体は、誰でも年を取るにつれて縮もうとする傾向がありますので、硝子体剥離は大変多いものです。たいていは硝子体と網膜はうまくはがれて、真ん中の取り付け部分だけが分厚いので、明るいところではその影が自分に見えて、チラチラするだけで済みます。うっとうしく感じますが、これは何も害がありません。
ところが100人に数人ぐらい、硝子体が縮む時、網膜からうまくはがれないで、網膜の一部を引きちぎる事があります。洋服のかぎ裂きのようなものです。これを網膜裂孔(もうまくれっこう)といいます。網膜裂孔をそのままにしておくと、網膜剥離(もうまくはくり)という失明につながる病気に進展します。したがって、飛蚊症が出てきたときは、網膜に穴があいてないか、詳しく調べる必要があります。
網膜剥離
網膜剥離とは、網膜に穴(裂孔)ができて、その穴から眼内の水が網膜の下に入り込み、網膜がはがれてしまう病気です。
飛蚊症に伴って生じるもの、眼球を強く打撲したときに生じるもの、生まれつき薄かった網膜(網膜格子状変性など)に穴ができて生じるものなどがあります。
網膜裂孔(網膜剥離の前段階)のみの場合は、網膜レーザー光凝固術を行います。レーザー光凝固術とは、網膜裂孔周囲にレーザー光を当て、瘢痕を作り、網膜剥離への進展を防ぐ治療法です。レーザー治療自体は10分程度で、あとは通院治療となりますので患者さんの負担を著しく軽くします。すでに、網膜剥離を起こしてしまっていた場合は、入院しなくては手術できません。手術そのものも大がかりになります。治療が遅れると病状をこじらせますので、やはり早期発見、早期治療が一番大切です。
また、網膜剥離となる原因は、硝子体剥離、網膜格子状変性のほか、糖尿病網膜症、ぶどう膜炎などがあります。このような場合は原因となっている疾患の治療を行います。
網膜静脈閉塞症
高齢者に多い病気ですが、加齢に伴う動脈硬化が進行すると、硬くなった動脈が静脈を圧迫して静脈の血流を遮断したり、部分的に閉塞したりします。時間が経つと末梢の静脈圧が異常に高くなり、その流域の網膜に出血が起こります。
血管閉塞の部位で網膜中心静脈閉塞症と網膜静脈分枝閉塞症に分類されますが、血管閉塞の影響が網膜の中心部(黄斑部)に及ばない場合は、無症状であることも多いです。黄斑部に血管閉塞の影響が及びますと、黄斑浮腫や黄斑出血、網膜剥離などが生じますので、視力が著しく低下します。
黄斑部病変が発症すると、治療の対象となります。最近では、抗VEGF(vascular endothelial growth factor; 血管内皮増殖因子)療法が一般的な治療となっています。抗VEGF製剤を直接眼内に注射することによって、黄斑部の出血や浮腫などの滲出性変化を抑えることで視細胞の機能を保ち治療する方法で、視力の維持や改善が可能になっています。劇的な効果が期待できる治療法ですが、しばしば再発し、定期的な継続治療が必要な場合もあります。
網膜の血管閉塞の領域が広ければ、その部位にレーザー光凝固術を行います。これは、新生血管などの増殖変化や緑内障の発症予防および抑制のために行われます。