加齢黄斑変性とは、網膜の中心である黄斑部に、異常な血管が発生することにより、黄斑部にむくみ(浮腫)や出血を起こして、視細胞を壊し、著しい視力低下を招く病気です。発病の初期は、視野の中心が暗く見える、物がゆがんで見えるなどの症状が現れます。病状が進行すると、黄斑部の障害がひどくなり、著しい視力低下が起こってきます。欧米において成人の失明原因の第一位となっていますが、日本においても高齢者人口の増加に伴って、患者数が増加しています。男性に多く、喫煙者に多いことが知られています。
左:正常な状態
右:中心が暗く見える
もともと加齢黄斑変性は欧米人に多く、日本人には少ない疾患でした。その主な理由としては、欧米人の目が日本人の目に比べ、光刺激に弱いことが挙げられます。最近では、日本でも患者が増加しております。原因は日本人の寿命が延びたことと、食生活の欧米化や、テレビやパソコンの普及により目に光刺激を受ける機会が多くなったことが考えられます。
加齢黄斑変性は萎縮型と滲出型の二つのタイプに分けられます。萎縮型は黄斑組織が徐々に萎縮し、機能低下を生じます。病状の進行が緩やかで、萎縮が黄斑の中心部に及ばない限り、視力低下は比較的に軽度に止まっています。一方、滲出型は黄斑部に異常な血管が発生し、血管から出血や血漿成分が漏れ出し、黄斑機能を障害します。発病すると、視野の中心が暗くなったり、物がゆがんで見えたりすることになります。病状の進行は早く、急に視力が著しく落ちることがしばしば見られます。このタイプは欧米人に比べ、日本人に多いと言われています。
病気の診断・程度を判定するには、眼底検査以外に光干渉断層検査(OCT: optical coherence tomography)とフルオレセイン蛍光眼底造影検査(FA: fluorescein angiography)、インドシアニングリーン(IA: indocyanine green angiography)などを組み合わせることが必要です。これらの検査の結果により、黄斑のどの部位に異常があるのか、どの範囲に病巣が広がっているのかを判断します。
治療方法として、従来、レーザー治療と手術治療が行われてきましたが、効果は限定的、合併症も多く見られ、決め手となる治療方法とはいえません。その後、レーザーや手術に代わって、光線力学療法(PDT: photo dynamic therapy)という方法が行われるようになりました。光線力学療法とは、特定のレーザーだけに反応する薬剤を静脈に注射した後に、黄斑病変部にレーザーを照射する治療法です。弱いレーザーによって薬剤を活性化させ、網膜へのダメージを抑えながら異常な血管をつぶす方法です。しかし、この方法でも治療効果は病態の種類によってかなり差があります。
最近では、抗VEGF(vascular endothelial growth factor; 血管内皮増殖因子)療法がもっとも注目されています。抗VEGF製剤を直接眼内に注射することによって、黄斑部の新生血管の活動性を弱め、出血や浮腫などの滲出性変化を抑えることで視細胞の機能を保ち、治療する方法で、視力の維持や改善が可能になっています。この画期的な治療法でも一定の割合で効果が思わしくない症例も出ています。現在は、iPS細胞移植治療にも、期待が持たれています。
加齢黄斑変性の発生要因として、喫煙と日光暴露が最も注目されています。喫煙者は非喫煙者に比べて、加齢黄斑変性の発生頻度は数倍高いと報告されています。したがって、禁煙は最大の予防策といえます。また、太陽光の中の青色光が黄斑細胞に悪影響を与えます。普段の生活でできるだけ太陽光線を遮ることにより、網膜へのダメージを抑え、黄斑細胞の活性化を維持します。また、亜鉛、カロチノイドの血中濃度が低下すると加齢黄斑変性の発生頻度が高くなります。亜鉛が含まれている食品(穀類、貝類、根菜類など)の摂取とカロチノイドを多く含んでいる緑黄色野菜を摂取することにより加齢黄斑変性の予防につながります。
加齢黄斑変性に対する眼内注射の効果を十分に引き出すためには、検査や診察を含めて、かなりの労力とマンパワーが必要です。当院は、京都大学病院と連携して治療を行います。病院と診療所がお互いに役割を分担することで患者さんのQOL(生活の質)向上を目指します。